内田光子:シューマン ピアノ協奏曲 サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル

最近Youtubeのふとした動画からたどりついたベルフィルの公式サイト...しばらく見ないうちに素晴らしくリニューアルされている。

しかも今の時代に合わせ、DIGITAL CONCERT HALLという名で動画配信も。演奏会もライブストリーミングで高画質/高音質で配信してるのだ。凄い!
そりゃそうだよね。音楽ソフトも売れなくなってる今、クラシックなんて飽和状態。自分だってこれ以上CDとか集めても仕方ないって思ってるし世の経済がこんなだから尚更だ。だからエキサイティングな演奏会の方を鑑賞する方が数倍魅力的、でもベルフィルのチケットは高い、となると一回の演奏会を約10ユーロでライブ配信は素敵だ。しかもベルフィルのブランドだからできる最高品質の配信。

さて是非試してみたいな、と思い、時差のキツいライブストリーミングではなく自分の観てみたかったアーカイブ演奏会を購入することにした。それは今年2月の内田光子が演奏するシューマンの協奏曲。もちろんサイモン・ラトル指揮だ。早速アーカイブ視聴をカードで購入。結構簡単ですね。

その日の演奏会全てを見ることができたし、クオリティにも大満足。カメラワークや編集も素晴らしい。ライブストリーミングの時もこんな素晴らしい編集なのかな、と少々疑問。ま、たぶん相当お金かけてるみたいだから多分大丈夫なんだろう。

いや〜、それにしてもシューマンの協奏曲、目からウロコ。さすが内田光子、またもや凄い世界を聴かせてくれました。これまではペライアの弾くシューマンがすごく好きで先日もNHKで放送した演奏にかなり満足して、感想を書こうと思ってたところ。でもこの内田光子の演奏を聴いてペライアの演奏についての感想が書けなくなってしまった。だって、観た時の印象をそのまま書きたいのに、もうその印象には戻れない。仕方がないからペライアの演奏については再度観てから書く事にしよう。

内田光子の演奏だけど、とにかく展開がすごく明確でしかもシューマンの響きが輝いている。英語で言うtriumphant(勝利的)で、音に膨らみがあるし、この協奏曲の真の輝きを見出せたのに感動した。第三楽章で多少ミスタッチというよりも危うい感じの箇所もあったが、そんなの気にならないほど凄かった。オケと一緒に音楽を作る事によって得た豊穣な推進力。シューマンの和音の輝きは独特なのだが、それが本当に輝かしく鳴ってた。以前にニューヨークでアルゲリッチシューマンの協奏曲の演奏会に行ったときは、多分その日調子の良くなかったであろうアルゲリッチが自分の殻に閉じこもり、そこから生まれているオーケストラへの距離感があって空回りしながら暴走する不毛なシューマンの演奏になっていた。内田の演奏は全く逆でオーケストラと一体になってスケールの大きな演奏を展開していた。もちろんサイモン・ラトルという素晴らしいパートナーと素晴らしいオケのせいもあったのだが。

内田光子という新しい世界を一緒に作りだせるパートナーが気に入ったのか、ラトルは来年2月に内田光子を再び迎えてベートーヴェンの協奏曲全曲をベルフィルで演奏するようだ。その内4曲がライブ配信される予定。ぜひ観ねば...

内田光子 モーツァルト協奏曲を弾き振りで再録(ライブ)

内田光子:モーツァルトピアノ協奏曲



8月初頭にリリースされていたアルバムですが、買うのを忘れてました。
で、最近気づいて買ってみたけど、このアルバムは色んな意味で非常に良いです。

この録音の話を最初に聞いた時は思ったんですよ。
すでにテイトとの録音が完璧なのに、なぜわざわざ... モーツァルト再録する前にバッハとかベトのソナタとかドビュッシー前奏曲とか録音してくれ...と。



テイトとのモーツァルトは美しくてオケとのバランスなども最高だった。
その結果、内田&テイト盤は世界のスタンダードになったわけで、それは生誕250年のモーツァルトイヤーの最重要コンサート(ザルツブルグでの生誕祭、ベルフィルのジルベスター)でのモーツァルト協奏曲へのソロイストに選出された事でもわかるはず。



さて今回の再録音の目玉は、1.内田が弾き振りしていること、2.ライブ録音であること、3.オケがクリーヴランドであることでしょう。その点が正に今回の演奏の良い部分につながっているなと感じた。もちろんテイト盤に劣る点もいくつかあったけど...



良い点は、前回よりも自由自在な表現で全体にモーツァルトのエネルギーと喜びみたいなものが漲っていること。当然ライブの影響もあるでしょう。特にそれぞれの協奏曲の第三楽章が素晴らしい。音楽が溢れ出てくるような喜びに満ちている。これには各パートの表現がより深く前に出てきたことにもあるかも。(副旋律的なメロディも色濃く出ていてナカナカ良いです。)
そしてそれ以上にオーケストラの表現が一段深くなっていて、全体が大きいうねりを生み出しているような感覚がとても良いです。
テイト盤の宝石のように美しいモーツァルトより、たぶんモーツァルト自身がイメージしていた音楽に近くなっているんじゃないかな、と勝手に思い込んでます。笑
それからライブ演奏なだけにカデンツァの凄さがやっぱり突出してる。内田光子カデンツァ演奏はブラックホールのように聴衆を吸いこんでしまうような凄味がありますね。



残念な点は、弾き振りのせいか、忙しいところでのピアノ演奏が以前のように「完璧」ではないこと。テイト盤のような、速いパッセージでの真珠が転がるような美しさはあまりなく、全体のうねりで押してる感じがしました。



ま、何はともあれ大満足。誰にでもオススメの素晴らしいCDかと。
この素晴らしさなら22番とかも絶対リリースして欲しい。

アンスネス、シューベルトについて語る

アンスネスは文句なく素晴らしいピアニストで、アンスネスシューベルトはとてもいい演奏なのになぜか心に響かない。
彼独特の清々しい見通しの良い演奏は演奏家として好感が持てても、シューベルトの世界とは違うような気がする。


アンスネスとは違うタイプの音楽家だけど、ブレンデルもそう。上手いしバランスも良い、構成もきちんと考えられている。でもシューベルトの音楽は彼に対する「共感=シンパシー」が絶対だ。シューベルトの音世界は彼に対する共感の深さと大きさがどれだけ有るかにかかっていると思う。


じゃあ、シューベルトへのシンパシーが感じられる演奏家って誰?と言えば、いつも通りの答えだけど、内田光子、コヴァセヴィッチ、シフとかになる。(ペライア田部京子、ピリスとかのシンパシーのレベルでは心は打たれない。)


で、アンスネスに戻るけど、アンスネスの演奏は技術的にも上手だし見通しが良い。情感もあるし、感性も鋭い。とにかく完成度は高い。
でも、シューベルトを演奏するには、何かが足りないように思う。その「何か」を掴んだら本当に人の心を強く打つような凄い演奏家になるのに、と思わずにはいられない。


で、最近レコ芸に出てたアンスネスのインタビューで、なんとなく理由がわかってきた。彼はインタビューの中で、シューベルトに取り組んで「疲弊した」と語っていて、またシューベルトは「抽象的で難しい」とも表現している。


いや、納得!!
正にこの部分がシューベルトの魂を掴みきれていない理由だと思う。シューベルトは彼自身に共感すれば抽象的とは全く反対の音楽であるし、共感していないから疲弊するのだ。内田光子があるインタビューで、「どんな作曲家に取り組んで集中している時でも、ちょっとシューベルトを弾いてみると止まらなくなるんです。なんて美しいんだろうと、ひたすら耽ってしまうんです。」
内田光子のようにシューベルトの孤独を分かち合い、彼の私小説的な音世界へ逃げ込めるような魂の共有がないと難しい。もしくはシフのシューベルトへの愛情に満ちた視線、コヴァセヴィッチのシューベルトの絶望への共感。共感が無く、彼の世界が理解できないからこそ、「抽象的で難しい」と言ってのけてしまうのだろう。(これにはさすがに自分もビックリしたが...)


インタビューだけで独断するのも良くないのだが、彼のインタビューから若い頃から安定していて満ち足りた人生を送っているのがわかった。多分、ここの辺りが違うのだろう。彼のベートーヴェンも彼がもっと年をとったら感動するような演奏になるのだろうか?シューベルトは年を取ったからといって良くなる事はないので(年を取って人生を振り返るような枯れた要素はシューベルトには皆無だから。)、すでに30を回って「シューベルトが抽象的で難しい」と言ってしまったアンスネスシューベルト演奏で感動することは多分もう無いだろうな。


クリスティアン・ツィメルマン リサイタル

行って来ました、観てきました、聴いてきましたツィメルマン
お初です。


演奏を聴いた後の第一印象は、「若々しい!」
変な意味での円熟とは無縁の熟した清々しさというのでしょうか。
見事なバランス感覚にヤラれたのでありました。


まず、バッハのパルティータから。とても鋭く彫りの深い演奏でした。
最初の方はペダリングかけ過ぎかな、と思いました。ちょっとキツくて、意識し過ぎた様な演奏になってしまってましたが、どんどんイイ感じにそぎ落とされ、最後の方はとても美しく音楽を感じる事ができた。


ベートーヴェンの32番。ベト最後のピアノソナタ
う〜ん、若々しいなあ。こう、ベトの中期の作品を聴いてるような。凄い技術の人なんですね。
で、そのためらいの無い推進力が多少直線的に感じられたというか、ベトの32番で必要な「感情のうねり」、心を揺さぶる波の重なり、みたいな物は感じられなかったかも。
32番は、フレーズ間の移行でストーリーが深くなるのです。それはタイミングであったり、音の面取りであったり、その負のスペースが人生を振り返って感謝する大きなうねりとなって最後に戻ってくるわけです。ツィメルマンはこの辺りが直線的に聞こえたな。もちろん、深遠なる部分の表現も聴こえたし、凄いと思ったんだけど、聴いてて自然に心の中から熱くなってくるような感覚は無かった。
内田光子とかコヴァセヴィッチのライブでのベートーヴェンは、本当に心がグウ〜〜〜っと掴まれて熱くなってきたんですけどね。
演奏の好みの差なのかな...それでもやっぱりこれだけのピアニストには「もっと」を期待してしまう。ツィメルマンショパンの幻想曲とかは個人的には凄く好きなんですけどね.... ベトは合わないのかな。


個人的には、後半に演奏したブラームスシマノフスキーの方が断然良かったと思いました。
ふ〜む、後半に至って初めてこのプログラムが時代順である事に気づいた。面白いのは、シンフォニックな所や音型で共通するような部分がバッハ〜シマノフスキに聞かれた。面白い。何となく反復的な面白さもあったかも。バッハ→ベートーヴェンブラームスシマノフスキ、みたいな。


最後のシマノフスキーの作品は初めて聴いたけど、とても良かった。演奏はスパーブ。素晴らしかった。
音が外に広がって行くタイプの音楽家だな、とつくづく感じました。


アンコールは無し。

それにしても、一列目中央にサンダル履いてた若い男がいたけど、ひどいね。
パリス・ヒルトンとかじゃないんだからさ。オシャレを勘違いして、場違いなサンダル。
アスペンやマルボーロとかの野外音楽祭ならともかくね...。
スワロウテイルまで着ている演奏家に対して、サンダルでの組足は本当に醜いし、失礼。空気が読めてない。
保守的な服を着れば良いわけではないけど、バランスの取れたオシャレってモンをしなくてはいけないし、演奏家への敬意ってものがあるでしょうに。ああいう人が一番前に座ってる事に凄く恥ずかしく感じた。音楽会をわかったようなクロウトのフリでもしてるのかね。クロウトのフリをするなら、グルダジーンズでもはいてきた時とかに確信犯的にキメて欲しいよ...


ま、ツィメルマンはまた聴きに行きたいな、高過ぎるけど。
今度は埼玉で聴きに行こう...

フォルジュルネ:バロックの夜会

行って来ました、フォルジュルネ。
凄い人だったけど、事前に怖れていた程でもなく良かったです。

古楽器のコンサートに行く機会がこれまでほとんど無かったので、今回色々な古楽器の編成をライブで見聴きすることが出来て勉強になりました。リコーダーなんか見たのも中学校以来だし。

夜のコンサートの方がゆっくり楽しめて良かったですね。
個人的には気になっていたファビオ・ビオンディの演奏が聴けて良かったです。あと古楽器の響きや表現を目の前で体感できたのは大きかったな。CDだとわからないもんね。色々な意味で古楽器の良さと悪さ(というか限界)が理解できたので今後のバロック音楽の聴き方もちょっと変わるかも。

ま、フォルジュルネ、来年はなんになるのかな。また行きたい感じではあります。マスタークラスがいくつかあったので、来年はそちらも聴いてみたいと思います。

動画鑑賞 vol.1:モーツァルト ピアノ協奏曲

Youtubeって最近、ハイクオリチィ対応で音も素晴らしくなって、Youtubeライフもさらに面白くなりました。なんといっても古今東西、新旧演奏家の貴重な動画が観られるんだから。そしてかなり音質も良いし!URL全ての最後に(&fmt=18)を付けてしまっている自分。もちろん昔の動画に付けても意味ないけど。

さて、Youtubeでモツのピアノ協奏曲って入力してみたらずらずら美味しい動画が出て来たので、気になった動画を色々観てみた。(一応URLは付けますが、いつ削除されるかわかりませんので)



【第1位】K459 by Radu Lupu ★★★★★
ttp://www.youtube.com/watch?v=N4h2Z_MKxLs&fmt=18
ルプーのピアノは結構好きな音でニューヨークに住んでた頃も何度か聴きに行きまして、自分とは違うイメージで相容れない表現とかあっても常に高度な演奏をしてました。あの森の木こりみたいな見た目でこんな美しい音と世界を造り上げるなんて...とその見た目とのギャップが素敵すぎる。(出だしで判断せずに三楽章ちゃんと最後まで観てくださいね〜!)
ルプーのこの動画はかなり前のもののはず。だってD.ジンマンの髪が!髭が!! 別人です。(アルものが無く、無いものがある感じで)ルプーは昔からの「森の人」みたいなヒゲですが。本当にこんな見た目の人がこんなノーブルな音出すんだから凄いですね。ルプーのオケへの合わせ方もこれぞMUSIC MAKINGって感じで、オケをそつなく見やるのも素敵すぎる。オケは管楽器がもっと抑えた表現で美しさを表現すべきところで、ピーヒャラやったりしていて「プフっ」な感じなところも。ルプーの音は高らかに鳴っていて、その広がりのある感じが好感もてるし...19番だからデモニッシュさが無さげでパキパキ演奏してるのも○です。第二楽章での音も本当にうっとりです。たまに左手の音が弱いのですが、これは録音のせいかも。映像もまともでとても手堅くまとまっていて品が良いです。DVDがあれば買いますね。
ルプーってペライアと共演した録音があったり、最近も内田光子とモツの2台ピアノ協を共演したりで欧米では極めて評価が高い人で是非日本にも来日公演して欲しい演奏家です。




【第2位】K466 by 内田光子 ★★★★
ttp://www.youtube.com/watch?v=3dkK1iw2SMk&fmt=18
この演奏は凄いんですが、私は内田さんは弾き振りより、指揮者と組んでる演奏の方が好きかな。ジルヴェスターでのラトルとの20番の方が好み。両方とも鬼気迫る演奏なんだけど、何か弾き振りの方はたたみかける気合いが強過ぎて、ちょっと息苦しい感じです。でもこの演奏の第二楽章は素晴らしい!デモニッシュな世界と天国的な世界のコントラストを弾かせたら内田さんの右に出る人はいないでしょうね。

以前カーネギー内田光子が20番と21番を弾きふりする演奏会に行ったのですが、弾き振りは天板を外すので音のディテールが消えちゃうんですよね。この映像は逆に全ての音をはっきりと録音していてちょっと生ナマしい。(ようつべ動画で音質うんぬん言えないけど...)

映像としては...内田さんのデモニッシュな所を克明に記録していてある意味凄い映像です。編集やアングルは結構良いかと。




【第3位】K459 by Maurizio Pollini ポリーニ ★★★
ttp://www.youtube.com/watch?v=G2hemO7j7Uw&fmt=18
さすがポリーニウィーンフィルで楽友協会ですか...しかもベーム。聴き始めは「お?良いかも?」と思ったのですが、やっぱり若い頃のポリーニ。5分を過ぎたら飽きてきて聴くのがつらくなってきました。もろ高めの直球で音と表現の引き出しの少ない若者丸出し。ウィーンフィルの弦の音はやたらとゴージャスだけど、管に較べて強過ぎじゃね?映像は普通な様でトランジションにダサいモンタージュで結構笑えます。そして第三楽章の途中から多分投稿者による変な写真のモンタージュが!!!この演奏はとにかくオケの音を楽しむなら良いですね。




【第4位】K595 by Alicia de Larrocha ラローチャ ★★★
ttp://www.youtube.com/watch?v=JfEf9gtU3qo&NR=1&fmt=18
ラローチャさんは...他人のお母さんの料理みたいです。まずくないけど、合わないって言うんでしょうか。でも音の世界は悪い意味で貴族的。あと音の粒と流れが滑舌の悪い人のようにつたなく聞こえる。いや、わざと音を揺らしてるんじゃなくって本当にトツトツと変に指が回ってないようなタイミングの音が出てて、耳が心地悪い...という所が数多くある。オケはとてもエレガントな音でまとめられててとても綺麗だけど、エレガントすぎる。ラローチャペダリングがっちり決めてる音に合ってるとはいえ、もうちょっとハキハキしてても良くない?映像的にはカメラ周りも含めいろいろとつまらないです。




【第5位】K466 by Friedrich Gulda グルダ ★★
ttp://www.youtube.com/watch?v=VtTqpqGIIYU&fmt=18
出た!こういうグルダは本当に生理的に受け付けない。K488の録音でのグルダと大違い。確信犯的に破天荒な感じも好感度ゼロでとにかくバリバリ弾き進みます。第二楽章の装飾音も緩急付け過ぎで悪趣味。ピアノのトーンもいかにも現代的な所を狙ってる感がエグい。オケの演奏はドラマ性もあるし品がある音で結構いいかも。映像として観てもセンス無し。グルダの脇の人の表情が冷めてて妙に気になります。




【第6位】K482 by 上原彩子
ttp://www.youtube.com/watch?v=FhwNPjVRdIw&feature=related&fmt=18
ああ〜かったりぃ〜気持ち悪ぃ!こういう演奏、全身に毛が生えてきそうです。チャイコ得意な人がいかにも陥りそうな罠。一つ一つのフレーズでケーキ一個食べさせられてる気分になります。確かに丁寧だし、ピアノは上手。でも内田光子曰く「モーツァルトはころころ気が変わる音楽。決して浸ってはいけない。」上原サンは自分の音でモーツァルトの音楽にマジ浸って溺れてます。こういう人にモツは一生弾けません。合掌。こういう人がベトを弾いた時がどうなるか、怖いもの見たさで興味あります。映像は...アングルが下手で絵になってない。編集も下手だし、ズームイン&ズームアウトも苦笑。

 

コヴァセヴィッチのベートーヴェン ピアノソナタ全集

Stephen kovacevich ベートーヴェンソ


ティーブン・コヴァセヴィッチ(Stephen Kovacevich)

自分の中では内田光子と双璧のスーパー・ピアニスト。
2006年でのオペラシティでのリサイタルも本当に素晴らしかった。もっと前から聴いておけば、彼のベートーヴェンの最後の3つのソナタもライブで聴けたんですけどね。今の歳を考えると、現在ベートーヴェンをフルパワーで弾けるのかなと心配です。

さて、そんなコヴァセヴィッチが残した偉大な録音群の中でも金字塔的な作品がベートーヴェンピアノソナタ全集です。これは絶対一家に1セットだと思っているぐらいの傑作です。

最近、この全集を戸棚から取り出してまた聴き始めたんだけど、本当に素晴らしいの一言。特にOp.109とOp.111。Op.109の最後に真っ白な光のエクスタシーの中で溶けて行く様は本当にアトムですよ。この人の素晴らしいのはベートーヴェンの強い光のエクスタシーを表現できる所。ベートーヴェンのパワーは真っ直ぐ天に昇る光でなくてはならなくて、この人のピアノはそんな音が出てます。しかもベートーヴェンで同じく重要な、一歩一歩地底に降りて行く様な深みもこの人は表現できるのです。Op.111でもとにかくスケールの大きい演奏を展開しているのに、その後半での深遠なる世界は半端ない。これをライブで聴いたら本当に凄いでしょうね。やっぱりライブを実際の会場で聴くと音が全然違います。内田光子のOp.111を演奏会で聴いて本当に涙が溢れてきた経験があるのですが、その後リリースされたCDだとあの音がコンパクトに収まってしまって、普通の素晴らしさになってしまってました。コヴァセヴィッチもCDでこれだけ凄いんだから、ライブで聴いたらエクスタシーで失神するかもです。

(後日談:最近はOp.110が一番素晴らしいと思えます。特に嘆きの歌からフーガ〜フィナーレへの展開が感動的過ぎる...)

コヴァセヴィッチはOp.110とOp.111のリサイタルDVDも出していて、こちらも素晴らしいですが、多分実際に会場で聴いてたらこのDVDの音の10倍ぐらい感動するんだろうな、と思っています。

この全集のCDでは他にも「熱情」は凄いです。もうこれぞ馬力!というような荒馬が疾走している感じで、ブンブンうなる様なピアノに圧倒されます。「ハンマークラヴィエ」は内田光子の録音に慣れてしまっていたので、コヴァセヴィッチの第一楽章を聴くともうちょっとじっくり演奏して欲しい感じが。逆に第4楽章は内田光子の理性の構成よりコヴァセヴィッチのようにパワーで押し切る形の方が聴けると感じますね。
そして、Op.111の後に続くバガテルがまた涙ものです。バガテルでコヴァセヴィッチを超える人はいないでしょう。ベートーヴェンの音楽で珍しく感傷的で人間的な部分を深く味わえて、シューベルト的な等身大の人間を感じたのでした。

そんなコヴァセヴィッチが40年ぶりにディアベッリを録音してリリースしたのだから、いても立ってもいられず、これから新宿タワーに買いに行ってきます。バッハのパルティータ4番がカップリングだそうで、期待大です。