コヴァセヴィッチのベートーヴェン ピアノソナタ全集

Stephen kovacevich ベートーヴェンソ


ティーブン・コヴァセヴィッチ(Stephen Kovacevich)

自分の中では内田光子と双璧のスーパー・ピアニスト。
2006年でのオペラシティでのリサイタルも本当に素晴らしかった。もっと前から聴いておけば、彼のベートーヴェンの最後の3つのソナタもライブで聴けたんですけどね。今の歳を考えると、現在ベートーヴェンをフルパワーで弾けるのかなと心配です。

さて、そんなコヴァセヴィッチが残した偉大な録音群の中でも金字塔的な作品がベートーヴェンピアノソナタ全集です。これは絶対一家に1セットだと思っているぐらいの傑作です。

最近、この全集を戸棚から取り出してまた聴き始めたんだけど、本当に素晴らしいの一言。特にOp.109とOp.111。Op.109の最後に真っ白な光のエクスタシーの中で溶けて行く様は本当にアトムですよ。この人の素晴らしいのはベートーヴェンの強い光のエクスタシーを表現できる所。ベートーヴェンのパワーは真っ直ぐ天に昇る光でなくてはならなくて、この人のピアノはそんな音が出てます。しかもベートーヴェンで同じく重要な、一歩一歩地底に降りて行く様な深みもこの人は表現できるのです。Op.111でもとにかくスケールの大きい演奏を展開しているのに、その後半での深遠なる世界は半端ない。これをライブで聴いたら本当に凄いでしょうね。やっぱりライブを実際の会場で聴くと音が全然違います。内田光子のOp.111を演奏会で聴いて本当に涙が溢れてきた経験があるのですが、その後リリースされたCDだとあの音がコンパクトに収まってしまって、普通の素晴らしさになってしまってました。コヴァセヴィッチもCDでこれだけ凄いんだから、ライブで聴いたらエクスタシーで失神するかもです。

(後日談:最近はOp.110が一番素晴らしいと思えます。特に嘆きの歌からフーガ〜フィナーレへの展開が感動的過ぎる...)

コヴァセヴィッチはOp.110とOp.111のリサイタルDVDも出していて、こちらも素晴らしいですが、多分実際に会場で聴いてたらこのDVDの音の10倍ぐらい感動するんだろうな、と思っています。

この全集のCDでは他にも「熱情」は凄いです。もうこれぞ馬力!というような荒馬が疾走している感じで、ブンブンうなる様なピアノに圧倒されます。「ハンマークラヴィエ」は内田光子の録音に慣れてしまっていたので、コヴァセヴィッチの第一楽章を聴くともうちょっとじっくり演奏して欲しい感じが。逆に第4楽章は内田光子の理性の構成よりコヴァセヴィッチのようにパワーで押し切る形の方が聴けると感じますね。
そして、Op.111の後に続くバガテルがまた涙ものです。バガテルでコヴァセヴィッチを超える人はいないでしょう。ベートーヴェンの音楽で珍しく感傷的で人間的な部分を深く味わえて、シューベルト的な等身大の人間を感じたのでした。

そんなコヴァセヴィッチが40年ぶりにディアベッリを録音してリリースしたのだから、いても立ってもいられず、これから新宿タワーに買いに行ってきます。バッハのパルティータ4番がカップリングだそうで、期待大です。