感動したコンサート:内田光子1

内田光子 シューベルト「レリーク」「


内田光子のCDの演奏で何が一番好きですか?と訊かれたら...  自分的に決定盤の多い内田さんの録音ですが、下記になります。


シューベルトのD894「幻想」とD784。


D959やD960とか、ベト協4番とかの演奏も素晴らしいし、その他にも内田さんの名ディスクはまだまだあるので悩みどころはいろいろありますが、最終的には上の2つです。


2002年頃の演奏会でしたが、そのD894「幻想」を生で聴いた時には不思議な感動がありました。
それまでシューベルトが好きで内田光子の録音は何度も聴いてましたし、その他のピアニストの録音もたくさん聴いてました。ブレンデルペライア、ルプーなどの演奏会でも聴いたりはしていたので、内田光子の「幻想」はひときわ感動して涙しちゃうんだろうなあとか期待していたわけです。


でも、彼女の「幻想」を聴いた後の感動は、ひたすら続く夢見心地な気分とその余韻。演奏はCDとほとんど同じでした。CDよりも多少伸びのある演奏でしたけど、一番の違いは実際に聴く彼女のピアノの「音」でしょう。ライブで聴くとさらに微妙な弱音のニュアンスがわかりますし音が美しい。とにかくピアノの音というよりは、シューベルトの声みたいに聞こえてくるわけです。音自体の美しさより、響きの美しさなんでしょうか...
第一楽章のドラマ展開と音楽の美しさは本当に感動したのですが、第四楽章ではスウ〜っとすくい上げられそのまま空まで連れて行かれて最後にゆっくり元の場所に下ろしてもらうような感覚でした。その後、音楽会が終わってもその夢見心地な感覚がいつまでも続いてました。


「幻想」の演奏が終わり、彼女がゆっくりと手を膝に下ろしてから、しばらく経つと観客席からだんだんと拍手が広がって行きました。拍手はゆっくりゆっくりと大きくなっていく感じで、観客の多くも自分と同じく夢からゆっくり醒めるかのような感覚だったんだな、と一つの素晴らしい感覚を共有できたことが嬉しかった。拍手は彼女が5回目にステージに戻ってきても一層強くなるような大きなものでした。最後は全員スタンディングオベーションになりました。


これはカーネギーでのコンサートだったのだけど、写真家のリチャード・アヴェドンも来ていました。この人は内田さんのコンサートで何度か見た事があるので、内田さんの演奏が好きなんだなと思ったり。ま、その後内田さんのジャケ写も撮ってましたけどね。


この後に内田光子シューマンの幻想曲も演奏していたのですが、ウィーン的過ぎて全く共感できなかったので後味が悪かったのですが、「幻想」の幸せな気分が残っていたので良かったです。


シューベルトを聴いて幸せな気分になる、ってのも不思議ですが、彼の現実逃避から生まれる音の美しさは不思議な幸福感を感じますね。仲の良い友人と心が通じ合った瞬間の暖かみを感じます。


一度で良いので、内田さんのD784を演奏会で聴いてみたいものです。
こちらは多分絶望感に襲われること間違い無しですね。