田部京子のシューベルト作品集

シューベルトピアノ作品集

田部恭子

DENON
★★★★

主に後期のピアノソナタを中心とした作品集。素直な演奏がかなり好感度な優良ディスクでしょう。
柔らかなニュアンスと優しい響き。シューベルトに優しさを求めるリスナーにオススメでしょうね。特にそういったシューベルトの個性が良く出ているソナタ第13番(D664)は素晴らしい出来かな。

でも、シューベルトが本当にド壷にはまって錯乱状態→ドン底の表現が優しすぎるというか生ぬるいので、物足りなく思うところがあります。例えば、即興曲899の1番。ここのシューベルトは中程から本当に取り乱して落ちて行かなくてはいけないのだけど、田部っちのピアノは金持ちの令嬢がソファに突っ伏して「ウアアアアア」と泣いてるぐらいにしか聞こえないので、シューベルトが泣きわめくのを止めてゆっくり戻ってくる時の美しさが見えて来ない。即興曲は特にD899が全体的に物足りないですね。内田光子の凄みのある美しさ、はかなさ、みたいなのが聞こえてこないです。あと、リズムが弱いかな。シューベルトはリズムのアクセントが大事で、それがよろしくない。

全体的な演奏のディテールも内田光子の完成度にはまだまだ及んでない感じです。例えば第20番の第四楽章なんかを較べて聴いてみると、内田光子の凄さがわかります。内田光子は譜読みだけで、そう弾いてるんではないんですね。シューベルトがなぜそういう気持ちになっているか、内から理解しているような凄さがある。各フレーズの関係なんかも完璧。

ま、それでも、田部恭子の13番、21番、楽興の時、はかなり良かったです。