内田光子リサイタル@サントリーホール

全体として大満足だったけれども、多分後半とアンコールが素晴らしかったからかな。
前半はちょっと本調子でなかったような気が...。


まずモーツァルトのロンド。こうした曲は内田さんは大得意なはずなのに、音が硬く指も回り切ってないように感じられ、装飾音もいつもの端正な美しさはなく危うい繊細さになってたような... 今回私の席は一階の中央だったけど、音響的に駄目な席だったのか? ミドルレンジで少々歪んだ響きがあって聴きにくい部分があったのです。それと内田さんの指の硬さが相まって、いつもの極上のモーツァルトでは無かったと思う。残念!

モーツァルトからそのまま間髪入れずにベルクのソナタ。内田さんのベルクのソナタを聴くのはこれが3回目なのですが、今までで一番駄目だったような気がします。いつもは空気感と瑞々しさがあるのですが、今回のベルクは前傾姿勢な演奏で、席のせいか音の分離が悪い箇所もあり、いつもの素晴らしいフォルムが崩れてたような感じがします。大好きな作品なだけに楽しみにしていたのだけど...

前半の最後はベートーヴェンソナタ28番。今回のプログラムはこの作品とシューマンの対比...というかシューマンがどう想像力豊かにベートーヴェンの作品をファンタジーに膨らませたのかを感じられるように構成されていたと思う。28番はコヴァセヴィッチのリサイタルで「完璧」という極上レベルのを聴いていますが、内田さんの演奏は後半(第三楽章)からが素晴らしかった。というかプログラム前半最後になって本調子になったのかな?と思わずにはいられなかった。
第三楽章の静かな部分でのドラマから突然音楽が広がり始めたのを感じて、おおおキターーーという喜びが。最後の方は音も良く抜けて音楽に広がりが出て素晴らしかったですね。

なんか、美智子皇后が休憩中に到着し会場の雰囲気が変わったからなのか、内田さんの後半は絶好調でした。
内田さんの演奏によるシューマンの幻想曲は以前カーネギーで聴いていて、その時はあまりにも大きく出た演奏に「えええええ、違う!」と思って全然評価できなかったのに、今回はその素晴らしさを感じる事ができ大満足。多分自分が進化したか変わったからかな。当時はペライアの流麗でキラキラしたシューマンの幻想曲がベストだったので、ウィーン風に大きく構えた演奏を受けつけなかったし。

ただ、これも席の音響が悪かったからなのか(でも一階の中央ですよ!S席なのに...)内田さんのペダリングしすぎなのか、音が滲んで滲んで音の流れが良く見えない部分も... でも、ウィーン風の濃い味つけ、と思われる内田さんのアクセントは全体的に濃い演奏にマッチしていて、ある意味音楽の見通しが凄く良くて解り易かった。シューマンの取り留めなく、捉えどころ無く、変に幻想的でロマンチックな感じが良く出てたと思うし、ベートーヴェンの世界がどう転換されたか面白かった。スケールは大きく、タッチも素晴らしかったしね。

アンコールのシューベルトとモツソナタ第2楽章も終始柔らかいタッチで素晴らしかった。特に内田さんが必ずといっていいほどアンコール最後に弾くモツソナタ第2楽章(今回はK330だったかな。)は極上で、あれはお母さんが寝る前に歌ってくれる子守唄とかおやすみのキスなんだと思う。

やっぱり内田さんは特別なピアニストなんだな〜と結局は最後に実感したんだけどね。日本では余りしないんだけど、最後はスタンディングオベーションしちゃった...

個人的に面白かったのは、内田さんが後半に出て来た時に、美智子皇后に向かって挨拶したんだけど、内田さんがまるでベルサイユのばらのオスカルに見えた事。政府高官の娘で男勝りの内田さんと皇后だから立場的にもオスカルとアントワネットに近いしね。あと内田さんのヘアスタイルと挨拶の仕方がオスカルに似てたのかな。美智子皇后に愛されてる内田さんがオスカルとクロスオーバーするとても興味深い瞬間だった。

今週あともう一回あるので、モツのロンドは復讐戦で素晴らしいのを聴きたいな〜と思ってます。