内田光子のハンマークラヴィーア

内田光子
ベートーヴェン
ピアノソナタ第28番、第29番"ハンマークラヴィーア"

前回のベートーヴェンピアノソナタ30番〜32番の録音で、内田光子は透明感溢れる自由闊達かつ緻密な音楽を展開し、ベートーヴェンの音楽のスケールの大きさと世界の深さは、実は音の厚みでもヘヴィさでも厳しさでもない、ということを見事に証明していたと思う。

だから今回のハンマークラヴィアの録音はリリースが楽しみだったけど、その実、彼女の音楽性にこの曲の持っている途方もないパワーとスケールが合わないのでは、という心配も。

買って聴いてみると、見事に裏切られた!、というか「光子にはまたしてもヤラれたわ!」という嬉しい悲鳴。特筆すべきはハンマークラヴィーアという曲の持っている輝かしい勝利的な響きが、ノッケから素晴らしい音で鳴り響いている点だ。第3楽章なんかはいかにもミッチーが得意とする世界だけど、それとて実際は内田的没入系内向ではなく、内なる音がゆっくりと外に無限の広がりを見せるのだ。う〜ん、ステキ。


ハンマーKの第1楽章の出だしで内田光子は輝かしい音を隅々まで響かせ、理想高きこの曲の全体のスケールとトーンを決める。こんなに開放的に輝かしくバーンと決めてくれるベートーヴェンは久しぶりで聴いていて本当に心地がイイ。初めは聴いていて「ちょっと遅いかな?」と思わせるのだが、透明で見通しの良い音と、ちょいとウィーン的センス良くアクセントのついた小気味良く刻まれるリズム!によって、颯爽と展開していくのだ。超ノリノリな光子...
第2楽章は、逆に音は繊細〜軽快なのに、リズムが織りなすが凄くキマっていて、内田光子ってリズム感と処理のセンスが抜群だよな〜と感心。ブレンデルとかだとこういう符点の処理がヘタクソだったりすんのよね。(あれま、オネエ戻っちゃったワ。)
第3楽章なんかは、内田ファン、アンチ内田がまず期待するところでしょ。その通りです。当然ここがハンマーKのブラックホールなわけだけれど、これがゆっくりと広がって行くのよ。ある意味ホワイトホールね、こりゃ。いつもの如く味わい深い名演です。ま、いつも通り、期待通りの内田さんかな。ここら辺は。
で、最終楽章、怒濤の超絶フーガなんですけど、これが気持ち悪い程綺麗に組み立てられてんのよ。しかもウネりながらスピード感もばっちりで颯爽と弾いている。ある意味バッハを弾いてるかのようなミニマルな表現だったりもして、静と動、両極が最高点で結びついてるかのような凄さ。各楽章の性格の違いをかなり強調してきた流れもここの巨大かつ緻密さにちゃんと収束というか上手く収まって行く。
これ以上納得しようのない素晴らしいハンマーKでございました。

逆に28番はかなり開放的なノリで、リラックスムード。リズムの処理はバッチリ。
コヴァセヴィッチの方が好みかな〜。
ということで、書き疲れたので(おいおい!)、28番については、28番特集で書きますわん。

それにしても、またしても凄い録音で、内田光子は着実に歴史的大ピアニストへの道を歩んでますな。
ま、この人が死んじゃったら凄い事になるんでしょうね。ま、私はこの人が生きている間にライブを聴きまくって内田さんがいつ逝っても悔いのないように頑張るわ。NYとかザルツブルグとかだけじゃなく、はやくハンマーKを弾きに日本に来なさい!