シューベルト

シューベルト ピアノソナタ第14番 D784

シューベルトピアノソナタの中でも特に暗くて、美しい曲。絶望の激しさの間に時折垣間みられる現実逃避的に心さすらう美しさのコントラストが凄過ぎる神がかってる曲。結局最後には救いは無く...
これまで聴いた演奏は下記の通り。


★★★★★
内田光子(Phillips)
もう、完璧に近い演奏。ゆっくりと振幅が大きくなるコントラスト、ポリフォニーの美しさ、不安定で常に揺らぎっぱなしのシューベルトの世界です。構成力や「音」を聴かせる技術も素晴らしい。でも、やっぱり何が一番素晴らしいかと言えば、彼女がシューベルトの絶望と孤独を一緒に感じているからでしょう。孤独な青春を過ごした演奏家ならではの世界。


★★★★☆
Radu Lupu (Phillips)
こちらも良く聴いています。内田のコントラストの強い激しい演奏は今日は無理!って時に聴いて、癒されています。ただルプーの演奏って割と音符からはみ出るようなレガートが無く、シューベルトには物足りなさも感じるかな。そのまま音符の長さ通りに進んでいかれると、絶望と逃避の間を行ったり来たりするシューベルトに聞こえなくて、もうちょっとヤケッパチな音符を入れて欲しいと思ったり... でも、重音の素晴らしさ、ゆっくりとしたメロディを紡いで行く歌のうまさ、終わりのオクターブ移行の凄さは内田のクリスタルクリアーな演奏とは別な魅力が満載。


★★★★
Alfred Brendel (Phillips)
ブレンデルシューベルトは、演奏は上手だし良くまとまってるのに面白みが無いのは通例なのですけど、このライブでのブレンデルはある意味とんがっててまだ聴けるかな。でも上の二つの演奏には感性度&完成度においてとても及びません。上の二つは素晴らしいイマジネーションでシューベルトの音世界が展開されてるけど、やっぱりブレンデルって人間が単にシューベルトを中から理解するのが不可能という事実が問題なのでしょう。シューベルトの音楽をいつも音符上では完成度高く演奏してはいますけど、これが限度ですわね。ま、ライブってのが良いです。


★★★☆
Sviatslav Richter
リヒテルシューベルトは、ある意味、悠久の安堵感があって、シューベルトじゃ無くなっちゃってます。聴くと変に落ち着いちゃうというか。シューベルトの音楽に不安や絶望、孤独感などを感じたくない人には良いのではないでしょうか。演奏は悪くはないんですけどね。


★★★
Pires
ピリスのシューベルトを支持する人が多いのですが、私には非常につまらない音楽にしか聞こえません。シューベルトに叙情性を求めてる人には合うのでしょうか。でも、変に上っ面だけ妙に丁寧に弾いたりしてるけど、イマジネーションも余りないし、シューベルトの美しいポリフォニーがぜんぜん表現できてません。ポリフォニーは雑なくせに、「ここよ!」ってな部分になると妙に丁寧に弾いちゃったり、でもそれがまた的外れで... ま、下の演奏家と較べりゃ断然マシなので、三ツ星ね。


★★
Ingrid Haebler
出ました。この人の演奏を聴くと、埃っぽいヴィクトリアン調のバラ柄のカーテンとソファだらけの古めかしい部屋で、つまらない話をし続けるおばちゃんとイングリッシュ・ティーを飲んでいる気分になるのはなぜかしら。イマジネーションもないし、演奏も下手だしね。過去の追想だけで生きているおばあちゃんの思い出話。病気に体を蝕まれ始め、絶望と孤独に精神を蝕まれ始めた寂しい青年の姿はここにはありませぬ。さ、ロイヤル・アルバートで紅茶でも飲みましょうか。あら、お茶も古くてごめんなさいね。